UNTRACE

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『グラスホッパー』

伊坂幸太郎/角川文庫/2015

 

読んだことあるけど、映画化されてから再読したいと思っていてできてなかったから思い切って買っちゃった。

 

僕は、君のために結構頑張ってるんじゃないかな。

っていう鈴木のセリフがこの小説で一番お気に入り。鈴木は、全キャラクターの中で一番普通で、大した取り柄もなくて、個性強すぎのキャラたちの中で、本当に普通。押し屋の家での振る舞いとかお人好しすぎて可愛く思えてくるくらい。でも、結局生き残ったのは鈴木だけ。真相を知ったのも鈴木だけ。押し屋をめぐる戦い、って感じで進む物語だけど、鈴木だけは槿に勝ったんじゃないかと思う。その普通さとお人好しで。あまりにぶっ飛んだ殺し屋の世界と読者をつなぐために鈴木がいるってあとがきには書いてあったけど、鈴木の存在価値はそれだけじゃない気がする。(たしかにクレイジーな奴らばっかりの中で鈴木のターンになるとほっとはする)例えば、槿が途中バッタと人間の話をする。

どんな動物でも密集して暮らしていけば、種類が変わっていく。黒くなり、慌ただしくなり、凶暴になる。気づけば飛びバッタ、だ

群集相は大移動をして、あちこちのものを食い散らかす。仲間の死骸だって食う。同じトノサマバッタでも緑のやつとは大違いだ。人間もそうだ

でも、馬鹿みたいにたくさんいるバッタの中にもきっとそれぞれの生活がある。鈴木や鈴木の奥さんみたいな人間もいる。鈴木の存在は、なかなかに魅力的。鈴木自身が、そして特にその奥さんが、殺し屋たちには絶対にない魅力を持っているから。2人のバイキングでの出会い方なんて最高だし、最後それを一人でやる鈴木のシーンで終わるのも最高。なんだかんだ鈴木の奥さんが一番好きなキャラクターな気がしてきた。

 

あとがきで、人間の死を「破壊」として描いているとあったけど、とても納得。痛みとかもあんまり描かれてないし。クレバーに、異常なほど細かく現実的に人が殺される様が描かれるから、かえっていわゆる命の重さ、とか道徳的なものが薄れている。こんなに人が殺されているのにさっぱりしているところが、不気味でもあり物語全体のちょっと非現実的な、言ってしまえば摩訶不思議なファンタジーみたいな雰囲気を担保していると思う。蝉の殺人シーンはちょっと怖いけど。

 

伊坂幸太郎の小説は、本当に面白い。文章が機知に富んでいるというか、読んでいてどきどきするような感覚。ときめき?ストーリー展開も独特すぎて惹きつけられるし、一番は途中で必ずと言って良いほど出て来る、洋楽やその歌詞、有名な人の言葉。おしゃれ。比喩も、全体的におしゃれ。

マリアビートルも読もうかなつぎは。